元観光庁長官・田端浩×ギフトライフ代表・山田希彦 対談<br />
「観光立国ニッポンへの道〜イノベーションがもたらすチカラ」<br />

2023.12.01

元観光庁長官・田端浩×ギフトライフ代表・山田希彦 対談
「観光立国ニッポンへの道〜イノベーションがもたらすチカラ」

二人の出会い

田端:最初は、共通の知人からの紹介でした。山田さんからA wonderful day(以下AWD)のお話しを聞いて「それは面白い!」と。まさにやっぱり超富裕層をターゲットとしたいわゆる高付加価値ビジネスサービスっていうのは、もう観光立国ジャパンの骨太の戦略だから、それはなかなか良いところを見つけたねとお話しさせてもらいました。

このラグジュアリーマーケットから、アフターコロナに向けてまず戻ってくる。各国そこをターゲットにしてすごく重視していきますよ。と言う話をしました。あともう一つは、もう引退はしていますが、観光庁としても、その取り組みに対していろいろと資金的なサポート含め、民間もしくは自治体系と積極的に取り組んでいくので、いろいろと勉強してみるといいよ。とアドバイスしました。何かあったらいろいろと相談にも乗れるかな?というのが、きっかけでしたね。


山田:田端さんからの言葉をもらって、自分が見ている景色は間違ってないんだと思いました。僕も日本で育って日本の美しさっていうのをもっと世界に広めて行きたいし、日本に感謝しているからどう貢献できるかな?という想いがある中で、間もなく50歳になる節目の年に、自分自身が今後成長しながらもどう貢献していくかという意味では、国の方向性と自分の方向性が合ってるのは、非常に重要な部分だったんで、田畑さんのような方にそういう言葉をもらえると本当にボンと背中を大きく押してもらった感じがします。以来定期的に僕の方から一方的にご連絡させていただいていたんです。ありがとうございます。


現在の活動

田端:実は現職のときもそういう気持ちでずっとやってきていたのですが、行政や地方自治体の役所と、民間の産業界のマッチングがとても大切だなと思っていました。辞めた後もいろいろな企業さん、特にベンチャー企業のような新しくいろいろ取り組まれる方々は、大企業さんと違って名前も知られてないことからそこをなるべくうまく繋げられるようなことをしています。

行政側も、普段産業活動しているわけじゃないから知り合うきっかけも無いし、いろんなベンチャーの皆さんと話しをして、それを活かしてくっていうことはとても必要だと思っています。


ギフトライフの新事業=AWDについて

山田:弊社はブライダルの関連事業をやっているのですが、ここ数年の大きな傾向として、結婚はするけど結婚式をしない人が増えている。一方で広がっているのが、結婚式はしないけど、フォトウェディングといって、結婚の記念の写真を撮るだけ。という人たちは増えているので、そこはせっかくのハレノヒなので特別なモビリティを劇用車=いわゆる撮影用にお貸し出ししていこうと。

僕自身やっぱりモビリティが好きで、単なる移動手段としてではなくて、20世紀の人類の発展と日本の経済を支えてきた自動車=名車たちをきちんと守り、そして人生のハレノヒに写真の素材としてお貸出しして、お二人の思い出として、そして未来の子供たちにもこの車の魅力を残してあげたいな。とそんな思いでやっていたんですね。僕は単に車をモビリティというよりも、アートとして捉えています。

そんな中、たまたま友人が紹介してくれた先が、外国人旅行者向けに、カーシェアをする会社で、試しにというとこで車を貸出ししてみたんですね。タイミングとしてはコロナの真っ只中だったので、その頃は多くの問い合わせは入らなかったんですが、今年の春から一気に問い合わせが急増しまして。実際どういう人が借りているのだろう?と思い、僕も何回か立ち会ってみたんですね。そうしたところ、普通のレンタカーだったら、多分特別なこだわりはないのかもしれないけども、わざわざフェラーリやランボルギーニだったり、GTRを希望する人っていうのは、何かしらそこに意味があって、みんなその裏にストーリーがある。

例えば一例で言うと、息子がとにかくランボルギーニが好きで、テニスの試合で日本に来るというタイミングで、ランボルギーニを借りることはできるか?という問い合わせがあり、いざ貸し出し行ったら、そのお父さんが出てきて「実はこれは息子にサプライズにしているから、1回ちょっと見えないところまで出てもらって、合図をしたらもう1回入ってきてくれないか。」と。最初は劇用の撮影の為という目的でやっていたのですが、こんなにも喜んでもらえるのであれば、これは大いなる可能性があるんじゃないかな?と。また、実際にホテルのコンシェルジュの方々と話をしていると、東京を拠点として、多くのお客様が東京から1〜3時間以内の観光も希望する。だけど、やはり移動手段が大きな課題となっている。と。であれば、今日本が抱えている、外国人富裕層の移動手段の課題にも貢献できるのでは?と。移動手段としての利用だけでは無く、モビリティ体験として地方と東京を繋げて、移動の時間を豊かな時間に変えてあげることができるんじゃ無いか?地方の活性化にも貢献できるし。うん、これはオールハッピーなんじゃないかなと。

また、これはやりながら分かったことなのですが、スーパーカーやクラシックカーなど、そういう車両を持っている方々っていうのはやっぱり複数台持っている方が多いんですよね。プレジャーボートやヘリコプターの場合は、複数台持っている方は少ないけれども、それでも日本の場合、やっぱりどうしても四季があってベストシーズンが存在したり、週末利用に限られていたりする。要は稼働してない時間が非常に多い。であれば遊休資産のアセットとして、訪日外国人の富裕層の方々は、あまり季節にも週末にも関係なく、例えば冬でもオープンカーで走ったり、東京湾を船で観光したり、もしくは太平洋から富士山を見たりとか、いろいろな需要がつくれるので、シェアリングという新しい社会現象を捉えて、遊休資産の活用としても貢献できるのでは?と考えています。


AWDへの感想

田端:特別なそういう体験っていうのは、車を好きな方ってやはり乗りたい、そういう意味では、日本に来て日本のよさを味わうのに、非常に価値のある、移動を豊かな時間に変えると言うすごく画期的な取り組みだなと思います。

あと、ラグジュアリーなクルーザーやスーパーヨット、ヘリコプターやプライベートジェットなど、遊休資産の活用という、そういうところを外国人富裕層の方向けに貸し出しをするっていうやり方って、すごくいい着眼点だと思っています。今オフィスや別荘などが盛んにシェアされていますが、自分が使うときだけであとはシェアで貸出しする。本当に健全ですね、それがね。ようやくそれが日本の中で進みだしてきている段階ですが、AWDは、ラグジュアリーな移動手段の車とかクルーザーとかね、それをシェアリングするなんて、逆に魅力的で発信力あるからすごくいいじゃないかなと思いますよ。


観光立国を目指す上での現在の日本の課題

田端:観光立国行政って、小泉総理のときにビジットジャパンキャンペーンという名で立ち上がって、実は初めて観光っていう産業に、いわゆる一般の予算としてプロモーション費用がついたんです。元々日本の場合は、いつも申し上げていることなのですが、観光は自分の時間を旅行にあてて行くのだけど、そうすると例えば「1週間も休み取っていいね」なんていう雰囲気になってしまう。

ヨーロッパ、特にドイツの人たちなんかはね、夏の時期に2週間休む為にこの1年働いているっていう、順番が逆。ヨーロッパの人たちにはそれが定着していますよね。なので、実はちょっと観光の部分って行政としては、それまでは位置付けがそこまで重視されていなくて、それを小泉さんと、安倍政権において菅官房長官が総理から観光立国をきちっとやりたい、しっかりやってほしい。ということで、観光は全てに広がる産業ですから、全省的に政府全体で力を入れてやって伸ばしてきました。

今置かれている課題というと、観光立国=日本と言うことがようやく定着をしてきました。インバウンドって意味では、いろんな方が日本に来てもらうってことに違和感はなくなってきたかなと思います。日本ってすごく歴史があるし、文化もあるし、自然もいいし、食も世界から評価されているのですが、そこに対して、日本人が、自分たちの価値というものを、意外に実はあんまり評価をしていなくて。誇りですね。

日本人としての誇りとか地域の誇りとかそういうところをもっと再認識をして、それで、それを外国人旅行者の方に伝えていくっていうところにもうちょっと何か一歩進んでいかないといけないのかなと思いますね。あともう一点。インバウンド全体。この全体で見るとこの観光の部分の産業ビジネスにおいて、海外に比べて値段が安すぎて、もう少し、先ほども言ったように本来価値があるのですが、日本はずっと低成長で来ているとこもあり、そこがすごく、せっかくいいものを安すぎる形になっている。ここをきちんとしたプライスにすると、この産業界にもっとちゃんと良い待遇で働ける人が集まりサービスのクオリティも良くなると、ますます高く評価され、ビジネスとしても利益が出る良い循環になる。

ここが今転換期だと思いますが、これをどうやっていくかっていうところが、一つ大きな課題かなと思いますね。なので、こういうどんどんラグジュアリーなことから、海外の方の評価が発信されていくっていうことが必要かなと思うので大変タイムリーだと思います。



山田:おっしゃる通り日本ってやっぱり物作りが出発点の国なので、サービス業という部分では、付加価値をアピールするのが決して得意じゃないんでしょうね。ベンチャー企業とかもそうですが、特に旅館に行くと、なんでこんな価格で?と思いますよね。それでいて、人手不足や、跡継ぎの問題で、歴史ある老舗の旅館がなくなっていくっていうのは本当に日本としての損失だと思います。だからこそもっともっと自分たちのサービスレベルっていうものに自信を持っていくべきだと思います。

価格の問題は、結局今までこの価格だったから。みたいな過去に縛られていてこの価格を上げると今まで来ていただいていたお客様が離れていく。と言う理由であげられないので、もうちょっとやっぱり全体を見て、価格を上げる代わりにさらにアップデートしていく。外資系ホテルは価格変動制でコントロールしてそうしてますので、日本の旅館も柔軟に対応できるようなった方がいいんじゃないかなと思います。あとは、自分は陸・海・空の移動の問題からまずは変えていくっていうことでやっている中で、先ほど田端さんがおっしゃった通り、日本というのは海に囲まれた国で魅力を発信していくべきだと思う一方で、この海の規制というものが非常に僕もやってみてびっくりしたのですが、プレジャーボートでマリーナに行くと、今本当に特需で、係留場所が関東は全く開いていません。ウェイティングです。と。だけど平日はそんなに動いてないわけですよね。あの船を観光に動かしてあげたいと思っても、桟橋の許可を取って、それを不定期航路事業として運営するというところにいくつか大きなハードルがある。あとはね東京沿岸にはいっぱいタワマンができましたし、運河や海にも面しているので、あの辺りのマンションに住んいでる方が友人や両親を連れてきて、そこで気軽にみんなでボートやヨットに乗れるような、そんなライフスタイルがあるともっと生活を豊かにできるんじゃないかなと。

たくさんのアイディアはあるんだけれども、なかなか超え難い規制があって、それをいろいろと調べてみると、たとえば1940年代ぐらいに制定された船員法とかですね、もうずっと変わらずに、まだ法律が残っていたりとか。なので、民間の力だけではやはり難しい部分もあるので官民一体となってね、取り組むそういう必要があるのかなというのは、すでに私も感じ始めていますね。



田端:そういう規制とかルールが若干邪魔しているっていう分野が多いのでそれをどんどん変えてやっていこう。と言うのを私はやっていきたいし、実は行政の現職のときからずっと、変だなと思うことは変えればいいじゃないかっていうのが私のライフスタイルで、ずっと取り組んできたので。もうモタモタしていると置いてかれちゃう。そんな余裕のある国じゃないので、どんどん貧乏になっていく。まさにね、早めに手つけていかないと駄目だということを思っていて、これは現職の時からの持論なので、辞めた後は何よりも激しく言って、具体例を出していきながらそれでまずはやってみようと言う風穴を開けていって、うまくいったら横展開ですね。そうやってくっていうのがいいと思うんですね。そういう事例を作っていくということを進めていくのが一番いいかな。

でも残念なのは、ルールを変える。新しい事を変える。ということが本当に嫌いになっちゃった国になってしまって。駄目ですね。駄目なとこだと本当に思います。このままだと世界の動きについていけない、と思います。


観光立国におけるイノベーションの可能性

田端:イノベーションっていうものには本来日本人は能力あるし、できるんだけど、何だろう、何かしたときにうまくいかないことがあったりするじゃないですか。何か新しくイノベーションを進めようとした時に、なにか不具合があってトラブルがあった時にはどうするんですか?という質問が大体ついてくることが多いじゃないですか。何かあったとき責任取れるんですか?と。ここの感覚をもうちょっとみんなが応援する気質に変えて、やってみてちょっとぐらいあったって、だったら止めればいいし、あるいは修正すればいいじゃないか。みたいになってかないと、ちょっとねそこがすごいコンサバだと私は思います。
あと、観光立国行政で今一番重視しているのは、日本の場合、地方への誘客、地方の滞在をいかに増やすかです。地方にとってみたら、少子高齢化でどんどん人がいなくなって、産業もないし、働くところがないとか悪い話が多くなる。その問題も、観光とあるいは第一次産業の農林水産業っていうところって、本来は大きく生かせられる。外国の方々はそこを評価している。東京来て何泊かすればいいんだけど、行きたいのは、本来は地方なんですよ。だからそこにいかに誘客をして地方での滞在をいかに増やすかが、観光行政のすごい大きな目標で地方創生の切り札です。とすごく重視をしています。


AWDへ期待すること

田端:リリースの時のコメントにも書きましたが、本当にストレスフリーで快適に移動したいってことなんだと思います。今人手不足の問題で、タクシーも少ない、駅や空港もいろいろ待ち時間が長いだとかありますよね。そこを快適にできると、移動した先で、非常にスムーズに行けたことで快適で満足感が高いんですよね。

これがいいと言うことをどんどん海外の方から発信してもらうことによって、さっき言ったいろんなルールをどんどん緩やかにしてこうっていう動きになれば、結果的にはね、日本のためになるっていうそんなふうに繋がっていってもらうと大変嬉しいなと思います。

<田端浩様 経歴>

1981年:(昭和56年)東大法学部卒、旧運輸省に入省
2002年:国土交通省総合政策局観光部旅行振興課長
2009年:観光庁観光地域振興部長
2015年:国土交通省大臣官房長
2016年:国土交通審議官

愛知県出身